ミステリー事始め−コリンズ短篇集(1998/1/16)

ウィルキー・コリンズはディケンズと同時代のイギリスの作家で,25の小説,50以上の短篇,少なくとも15の戯曲を書いたが,親しい友人で親戚関係にもあったディケンズが,華々しい活躍をしたのに対し,コリンズは生前,「月長石」や「白衣の女」などわずかな作品が知られたのみで,晩年になるまで,あまり注目されることがなかった。

しかし,T.S.エリオットが「月長石」を「最も早く書かれた,最も長い,最も優れた探偵小説」と語った通り,ポウとならぶ探偵小説,推理小説の創始者として,近年再評価がすすみ,作品とともに,その少々風変わりな生涯も明らかになってきた。

岩波文庫でも「月長石」はまだだが,最近「白衣の女」に続き,短篇集「夢の女・恐怖のベッド」が収録された。

ミステリーとはいっても,コリンズの作品は,単に変わったトリックや,おどろおどろしい描写で恐怖感を煽るものではなく,舞台設定の巧さと,スムーズな筆運びで読み手を飽きさせない。

この短篇集には。クラッシックではあるが,謎解きを主眼としたもの(盗まれた手紙,恐怖のベッド),荒野の一軒家での少女の冒険譚 (黒い小屋),ユーモア溢れる書簡体で書かれた最初の推理小説(探偵志願),財産争いから凶人に仕立てられた男の苦しみ(狂気の結婚)など,バラエティーに富んだ作品が収められていて楽しめる。

岩波文庫には他に「夢の女」と題する作品がある。永井荷風の数多い作品の中でもお薦めの一品だが,女はすべからくミステリアスなもの....ということで,強引に結びつけておこう....。

☆白衣の女(コリンズ)岩波文庫☆

暑熱去らぬ夏の夜道,「ロンドンに行きたい」と声をかけてきた白ずくめの女。絵画教師ハートライトは奇妙な予感に震えた。発表と同時に一大ブームを巻き起こし社会現象にまでなったこの作品により,豊饒な英国ミステリの伝統が第一歩を踏み出した。ウィルキー・コリンズ(1824−89)の名を不朽のものにした傑作。

★夢の女(永井荷風)岩波文庫★

身は茫然と,何か分らぬ冷たい夢の中を彷徨っているような心持であった―貧しい家族のため,女中奉公から商人の妾,娼妓,待合の女将へと,つぎつぎに変貌をとげる元藩士の娘お浪。境遇に翻弄されながら,新時代の波間を必死に浮きただよう日蔭の花のあわれさを,にごりのない抒情性をたたえた文体で照らし出す。