アランの"幸福論"(1998/3/6)
世の中,気が利かない人間というのがいる。まわりの人間にとっては,なにかと癪のたねかもしれないが,本人はいたって暢気なものである。
気が利かない人間には,べつにいい加減にやろう,狡賢くいこう,意地悪しよう,などという考えはなく,おそらく一つのことに熱中したり,物事を深刻に考える習慣がないゆえに,気配りが不足する場合がある,ということだけだ。
それゆえ,気が利かない人間には,悲観的な考えや,不機嫌さや,怒りの発作がなかなかあらわれにくい。そもそも,そういう周囲の環境からもたらされる気分に気づきにくい,鈍感な人間だから,気が利かないのだ。
そういう人間,すなわち私にとって,アランの「幸福論」は,まさにバイブル(または免罪符)となりうる書である。アランは楽観的であること,上機嫌であることが幸せになるために大切な心がけだとしているからだ。
本書を読んで,あまりのノーテンキさに,「現実はそんなに甘いもんじゃ......」という人は多いだろう。たぶんよく気が利く人たちかもしれないが,我々「気が利かない族」からは,自ら苦労を背負い込んでご苦労様,としか言うことができない。
本書を「世界中でもっとも美しい本の一つである」と言ったアンドレ・モロワは,とても素直で素敵な人だ。
ところで,アランの「幸福論」が岩波文庫の新刊リストに載ったのをみて,ああ改訳されたのか......と思った方が多かったのではないだろうか。これが9回目の邦訳になるというこの「幸福論」は,すでに我々にとってそれだけ親しいものになっているということだが,岩波文庫では意外にも今回が初の登場なのだ。
もともと,アランは難しい言葉を使うことなく,力強い言い回しや,瑞々しい詩的なイメージで,生き生きとした印象を与えることに長けているが,神谷幹夫氏による岩波文庫版は,すんなりと心に入ってくる優しい文章が心地よく,既訳の諸本に対して,よりアランらしさを出すことに成功しているように思う。
*幸福論について,さまざまな幸福論と幸せのホームページが参考になります。
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