尾崎一雄「暢気眼鏡・虫のいろいろ」
(1998/9/21)
"ユーモア"とは,品のよい滑稽・上品な冗談ということらしいですが,あまり耳にしなくなりましたね。尾崎一雄は,昭和期の代表的なユーモア作家,と評価されていますが,その短編(岩波文庫の新刊「暢気眼鏡」)を読むと,暢気な若い妻や貧乏ネタが,昔流行した漫才を久しぶりにテレビで見たようで,若い人には,面白さがよくわからないのではないか,と思いました。少なくとも師匠の志賀直哉と比べて,同じ私小説といっても,ずいぶんスケールの小さな感じを受けました。だれか尾崎の偉大さを教えてくれないかなぁ。
尾崎家では,風呂桶を貰ったのに狭い家ゆえ,置き場所がなかった。そこで,玄関に置いていたのだが....
「うちでは玄関で風呂をたてているよ」
ある時井伏鱒二にそういったことがある。すると彼は目を丸くして,「君とこの玄関は,随分たてつけがいいんだね」といった。これには,こっちがまた目を丸くした。彼は,玄関をしめ切って,たたきに水をくみ込み湯を沸かすとでも思ったのだろう。呆れた男である。その後,何かというとこれを持ち出し,彼を閉口させている。
ユーモアですよ....。
解説に,著者の略歴紹介がないので,念のため....
尾崎一雄(1899〜1983) 伊勢市に生まれ,小田原市に育つ。神道家の父との確執に悩むが、志賀直哉の『大津順吉』に共鳴。文学を志し,志賀に師事。37年に発表した「暢気眼鏡」で芥川賞を受賞。私小説作家として知られた。戦後は,「虫のいろいろ」,「もぐら横町」,」「まぼろしの記」などを発表し,75年には自伝的文壇史「あの日この日」で読売文学賞を受賞。作品は200点を超える。神奈川近代文学館には尾崎一雄資料室がある。
|